変わるくらい/佐々木妖精
高校で処方されたトローチを
ずっと舐め続けている
いつか消えるという
先生の言葉を信じて
大学生にさん付けされ
上司にはくん付けされる
しかし口の中にはまだ
トローチが悠々と
体積を変えずに転がっている
味覚はだいぶやられたが
鼻は通ってきた
四次元の効果だ
紙面がやたらにおう
しかし好きなにおいだ
香水の匂いと汗の臭いは同じだ
どちらも生活の香りだ
刺激を求めて炭酸を喉へ流す
これは初めて飲み込んだ海水を思い出す
マウストゥマウス
実父にファーストキスを奪われた
虐待などなかった昔話
穴を息で震わせたり
小刻みに舌で塞ぎ遊ぶ
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