sketches/鴫澤初音
 
                   0310




 バイト先の人が、一緒に煙草を吸う昼休み、震える声で言った。
 「私、辞めようかな、」
 煙の舞い散る給湯室で、私は笑わず、うん、と言った。彼女の、
 初めて泣く眼の暗闇の中で、様々な人たちがどのようにして人
 を傷つけていくのか見ていた。平然と、地平まで見渡す眼が少
 しも美しくなかった。ずっと慕っていた人が変わっていく様子
 がつらかった。
 (私も辞めたい、)そうは言わなかった。その前に呼ばれて言
 われた言葉「あんたも辞める?」優しいその人が、優しくはな
 かった言葉を私に吐く息も濁っている。どうしたら泣か
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