遺された朝/木屋 亞万
もう春なのか
私は暁を覚えていない
布団の底はじんわり温かく
一夜の体温の溜まり場
冬の朝はまだ寒くて
張り詰めた明星の氷が
体温で溶けてしまいそう
私が眠っていることで
誰の邪魔にもならなければいいのだけれど
寄り添うには低すぎて
佇むだけでも害する体温
窓を開けようと
触れた硝子に
手の形がついてしまいました
指紋だけが冷ややかに残りました
清潔な朝をこの手で汚してしまいました
部屋の空気は何度か
私に出入りしていたから
私の一部だったかもしれない
あの二酸化炭素には少し見覚えがある
空気の波が彼を運んで窓の外に消し去る
良い草花に会えると
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