パリサイ広場にて/楢山孝介
 
街の中央にあるパリサイ広場にて
毎週水曜日の夜に
聞く者を癒してくれたり昂奮させたり
時には恋をさせるような歌を歌う女がいると
狭い我が家に住み着いている居候が言うので
気晴らしに見に行くことにした

広場に着くと聞こえてきたのは
女声でも歌声でもなく
聞く者を不快にさせる怒鳴り声
ひげ面で長髪の浮浪者風の男が
国や政治家や人間を断罪していた
居候をにらみ付けると
あれじゃない、あんなのは知らない、
と首を振った
あっちだ、と居候が指差した先には
頬杖をついて気怠げな様子で
石段に坐っている髪の短い女がいた

今日は歌えない、と不機嫌そうに女は言った
あんな
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