残闇、抱きしめるときの/たりぽん(大理 奔)
 
(水槽から飛び出した金魚の体温)

煤けたような暗がりで
瞳が開いていく
洞窟の中をずっと迷っているような
コオロギの摺り足
夜には手が届かない
指先が触れる闇の境界線、それは
ひんやりと湿った壁つたいに
もう明日も今日もなくて、時折
消え忘れた鉱油ランプがおかれていて
それが、朝になり夕暮れになる
黄昏を美しいとはいわない
そのさきにある風を
煤けたような暗がりを
さまよっているから

時折の真昼を通り過ぎながら
夜が洞窟の別名となり
月のない闇が
生きている僕の産道になる

明日、生まれよう
明日、生まれよう

(汗ばんだ後ろ髪の匂い)


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