刻の砂/銀猫
 

さらりさらさら、刻の砂
さらら、今日の出口は見つからず
さらり、昨日の砂は無い

時計のなかでは
あどけない頬が
片隅にほんのりと笑っており
記憶の岸辺に
くすくすと
無邪気な声を打ち寄せる

まだ幾つかの悲しみを知らず
やさしさを知らず
また
幾つかの幸福を知らない

無表情に返される天と地との入れ替わり
すべての持ち物は様変わり
されど
昨日は昨日の
今日には今日の理由があり
とくり、とくり、と打つ脈は
ささやかな歴史を巡る

さらり、さらさら時の砂
さらら、どこから注がれて
明日に零れてゆくのやら

下弦の月は知らぬふり
もしも天の星砂ならば
少しは煌めこうものの



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