殉教ノ墓 /服部 剛
 
2007年のクリスマス 
山手線の吊り革に手をかけて 
ぶら下がるぼくは 
新大久保駅で停車した 
車両のドアが開くと 
ふいに思い出す 
2001年・1月26日
この場所で線路に落ちて 
怯(おび)えた人を救おうと 
ホームの下に飛び降り 
自らの身を生贄(いけにえ)にした 
あるカメラマンと韓国人の青年を 
年の瀬の人混みは今日も変わらず 
なにごともなかったように 
過去の悲劇を塗り潰した 
時間(とき)の流れに押されて 
車両の開いたドアから 
吐き出されては 
入って来る 
人々 
( それぞれに 
( クリスマスケーキの袋を 
( ぶら下げて 
ドアは閉まり 
新大久保駅のホームから 
山手線はゆっくりと走り出す 
車窓に映る 
ネオンの街を離れた闇に 
うっすらと 
青い光の十字架が 
立っていた 
 
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