クリスマスの夜 /服部 剛
 
今は亡き作家が
生前過ごした祈りの家を目指し 
地下鉄の風が吹き抜ける 
階段を地上へ上る 
煉瓦の壁に掛かる白い看板に 
一行の言葉が浮かび上がっていた 
「 Be yourself 」 
北風が首すじに沁みる冬の夜は  
コートのポケットに両手を入れて 
仰いだ夜空の丸い月と 
囁きかける星々に 
密かに一言呟いた 
「 Be myself 」 
クリスマスの夜は 
暗闇に光る幼子が生まれた 
遥か昔の産声が 
ほんとうに聞こえて来る気がして 
無数の色が明滅する
ツリーがぼくを呼ぶ
門へと吸い込まれるように 
人気(ひとけ)無い坂道を
息を切らして 
駆け上がる 
年の瀬の 
冷たい夜に白い吐息を 
昇らせて 
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