「草の海」/菊尾
 
現実が後ろを向いたのは
僕が目を閉じたから
それは造作も無いこと
感情は石のように転がって
悲しめない事に胸が病む

蔦のように絡まりながらも広がって
あんな空も塞いでしまえばいい
それが悲しい事だとしても
沈黙には脅かされたまま


悲観したつまらない事
それをどうするのって
真正面から君が言う


何も無い地上に雨が遊歩して
次の言葉が見つからないまま僕は立ち尽くす
全身を覆う伸びきった草の海で
君の差す傘だけが見えていた


問いかけるように諭すから
その声はどこまでも続いていく
触れた日の最後を憶えているのは
触れたいとまた思ったから
僕は左手ではなく右手で君を掴もうと手を伸ばし始める


強張る肩を崩す君
時計を捨てる僕
一息の吐き方を思い出す

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