喫煙者/吉田ぐんじょう
わたしたち喫煙者の立てる
か細いため息のような煙の方が
害があると言いたいのだろう
町に灰皿は一つもなくて
喫煙の出来る店もなくなってしまって
そのうちわたしたち喫煙者は
一人ずつ捕らえられて縄で縛られて
ガス室かどこかで処刑されるかもしれない
そうして世の中には
無菌室で育てられたような
透き通るような純粋な人間ばかりになってしまって
そうなったらどうすればいいのか
わたしのような
煙草の煙と一緒にしか疲れを吐き出せない人たちは
疲れたまま
体操か何かやって深呼吸して
空が青いと思いながら
虚ろな眼で生きなければならないのだろうか
誰もいない裏路地で
ひいひい泣いてから
誰も来ないことを確認して
素早く煙草を吸ってすぐに消した
そんなでも煙草はおいしかった
みじめだった
本当にごめんなさい
でもきっと死にますから
多分すぐに死にますから
いまはもう少しだけ
許してください
と誰かに向かって呟いて
無様に洟をすすりながら
もう一本だけ
今度はゆっくり煙草を吸った
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