ひとよ/ヴィリウ
、御有難う御座居ました。
迷惑ばかり、御掛け致しました。
嗚呼、
今生の、別れで御座居ます。
馬鹿丁寧に手を付いて、
仕様の無い阿呆。
何時か昔に、変はらぬもの等何一つ無いと云つたけれども、
あれは戯言等ではなかつたのだね。
口に出したら、本当に成つちまいやがつた。
嗚呼、
御前の貌を忘れないよ。
迷ひの無い、其の目を。
あの夜もさうだつた。
たつた一夜の夢も、御前はそんな目で見てた。
好い晩だね、今宵は。
月も出やがらねえから、
頬が濡れてゐても判かりやあしねえ。
好い晩だね。
ひらひらと、惜別が舞つて。
戻る 編 削 Point(0)