冬の日 二/龍二
遠い昔だった様な気がしているし、たった今過ぎ去ってしまった過去でもある様に、静かに流れて、少しの間立ち尽くす。
冷たい陽光を睫毛が遮って、風景の彩度を狂わせた。聞いた事のある声はしない、足元から背後にのびる影にも、見覚えは無い。
たった一つ、この鼓動にだけ記憶がある。氷のような手すりに手をかけて、川面を見つめる。
泣きたい事は何も無かった。心から笑いたい事も無かった。だけど、無表情で温度の無い腕に抱かれている様な安心感が、そこにはあった。
白い光が不規則に乱反射し、反発し合う小波が脆弱さと均衡を保っていた。覚えてないのは、自分だけじゃない。恐らく、誰も自分が何物で、何処に立っていて、何時からこうなってしまったのかなんて、覚えていないだろう。
日記帳は破り捨てられ、北風と一緒に飛んでいった。流れ着いた先が未来なのであれば、それが一番優しい結末なんだと思う。
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