牛乳の糸 /服部 剛
 
「トイレはどこですか?」 
細い目をぱちりと開き 
丁寧に差し出す手のひらで 
トイレの場所を教えてくれた 
美術館のスーツを着た女の子 
チャックをしめて 
トイレから出ていくと 
両手を前に重ね 
眠そうに立っていた 
頼まれもしないのに 
丸い頭の黒髪を 
なんだかよしよししたくなる 
睡魔とたたかいながら立つ
女の子の向かいの白壁に掛かる 
木枠の額縁に「牛乳を注ぐ女」 
窓から漏れるひかりの部屋で 
黄色い服に身を包む婦人 
両手に抱えた 
壺から器へ 
牛乳の糸がしたたる  
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