「ラプソディー」/菊尾
 
舌を伸ばした 
見慣れた表情のすぐ後に 
瞼を閉じて 
舌を這わせた 
蝶が降り始めるみたいに 
二人は重なり落ちていく 
耳に近付いた 
僕の視界は閉ざされる 
感覚だけで越えていく 
縺れ合って解けない 
「残されたい」と言っていた 
指が動いて 
君が動いた 
その髪が甘く汚してくれるから 
僕は今だって白い波間を泳いでる 
動かなくなるまで抱き合える 
掬おうとしあう二人の事 
乾いた唇で「ありがとう」と薄く笑う 
背中越しに聞こえる声と 
目の前にある壁の染み 
ぼんやりした灯り 
誰にも照らせないことを知る 
跨いだ僕らの過去とこれからが 
どうか塗り潰されないように 
夜の音が止まるその瞬間に 
そうやって呟きながら 
願っている 
月がぶれた夜の事 
夢に夢を重ねる夜の事
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