東京/
久遠薫子
る
眠れない夜のあいだに
凝り固まった背中を
眼から
耳から ゆるめて
冷たく真新しい空気は
胸の途中までしか吸えず
血のかよわない指先までは届かない
遠く かすかに電車の音が聴こえる
額やこめかみで
脈打ちつづける記憶
早朝の陽射しをあびて
黄金色に輝く木々の
どこかで鳥がさえずり
わたしは暖かく湿った息を吐いて
忘れていたものごとを
ほんのすこし 思い出す
そういうふうにできている
たぶん
それでもいいのだと思う
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