音姫/壺内モモ子
音姫さまに、はじめてお会いしたのは
小学校の修学旅行で東京に行った日のこと
なんのために、そこにいらっしゃったのかわからなかったが
音姫さまは、水の流れる音をお出しになるそうなので
さっそく聞かせていただくことにした
きっと川のせせらぎや、波の音のような
美しい音にちがいないと思ってた
が、音姫さまは
ごーごぼごぼごぼごー
じゃー
と大きな音をお出しになった
まるで壊れたオルゴールのよう
私の中で音姫さまが壊れていく
想像していた長い髪も、安らかなお顔もありゃしない
そりゃそうだ
音姫さまは、ただの擬音装置だもの
ごーごぼごぼごぼごー
じゃー
ショックで
本物の水を流すのを忘れた
いや流したかもしれないけれど
音姫さまがお出しになった音なのかもしれない
ああ音姫さま
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