歌を/鴫澤初音
 

  つものや人に 自分の持つ思い出を簡単にかぶせてしまったり 
  するのかも知れない ね 光源氏みたいに 

  (あはは それって誰?)




  ところで今日 世界が荒廃した
  私は生き残って一人ぼっちで 
  もう電車にもあなたにも誰にも会えない 
  あなたの 匂いや 
  あなたの 皮膚や 
  あなたの 内の世界をもう思い出せない
  気が して

  ランプが駅でちかちかして いて
  待つ人は誰もいなかった 私は一人ぼっちで
  ピース、ってやってみせた
  最後の電球が切れた 後

  ただ  思い出せるものは言葉だけだった 
  あなたが 私に持続可能な形で残していった 
  言葉


  荒廃した世界で私は一人 あなたの歌と生きていく 
  
  そう 生きていく 信じて
  信じて 私 生きていく だから、


  抱きしめて、歌を (歌を、)





            (ただ、)

                    (あなたを、あなたを)
戻る   Point(2)