song of the rainforest/rabbitfighter
 
薄暗いホールで揺らぐ人波はしだいに一点をめざして渦を巻きはじめた。
彼女は裸足で、ざわめきに身をまかせている。廻れば廻るほど渦の中心は深く沈んでいく。握りしめた手のひらが汗ばんでいる。彼女はまだ歌いはじめない。興奮を抑えきれない群集は彼女に故郷の海を想わせた。巨大な低気圧を予感して低くたれ込める暗い空の下で押しつぶされる海。
 
 私は台風だ、と彼女は思う。南の彼方の海で生まれ、遥か北の彼方に思いを寄せる、そしてただそれだけのために足下の全てを踏み付け、蹴飛ばしていく。荒々しく、狂ったように。私は台風だ。彼女が探していたのは前触れだった。しっとりと温かい、南の島の風。彼女の長いスカートの裾が
[次のページ]
戻る   Point(4)