「残存」/菊尾
魅せられた
紫煙は揺れながら留まって
長い睫毛が
雨に濡れていた
足跡は誰かが持ち去ってしまう
望まずとも運ばれて行く体が
その振動に耐えられなくなった
嗄らす声の中身
雰囲気に呑まれて
浮かぶのは箇条書きの理由だけ
過去にすれば物悲しいと
今に不感症のその口が零した
先に行ってほしいのに
動かないように足を縛っている
糸を絡めた指は
変色が始まっていた
意図的な姿態
薄暗さの中で浮いている
消化不良の感情のまま抱いていた
辞書に載っていない互いの今を
どこへ流したかったのだろう
焼失
燃やしても黒く跡になった
残された人間
時間が伸びていく
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