奥さん、俺はあんたを本気で怖がらせたかった/紀ノ川つかさ
 
となどてんで聞かず
わあわあきゃあきゃあ叫んで
「ママ」にむしゃぶりついていったんだ
あんたはもちろん怖がりもせず
笑って言うのだ
「よくできたね、がんばったね
 お化け屋敷、とってもおもしろいわよ」
奥さん、俺は
あんたを本気で怖がらせたかった
いつもメガネなんかかけて
頭よさそうで
穏やかに笑っているあんたが
怯える様が見たかったんだ
でもクソガキどもが
みんなぶち壊しにしやがって
あんたを大いに喜ばせたさ
あんたはそして、俺達の
頭を撫でて、褒めてくれたんだ
俺はあんたに
そうされるためにお化け屋敷を
作ったんじゃない
あんたに恐れてほしかった
あんたに逃げてほしかった
俺はあんたを
コントロールしたかったんだ
ふざけたガキども
分かってないガキども
憎たらしいだけのガキども
子供の頃の
楽しい想い出でもなんでもない
俺は今でもあの時の
悔しさを忘れてはいないんだ
お前達みたいなのが大人になって
今の世の中を作ったんだろう
だから俺は
世の中が嫌いなんだ

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