同病相哀れむもしくは/亜樹
手首を切るような人間の感情はわからない、と彼女は言った。
それは、彼女のまっとうさを端的に表わした発言だろう。
私が最も憧れて、同時に疎む、彼女の特性の一つである。
わからない、と言った彼女は、おそらく私がそのとき、引きつったような笑みを浮かべた理由もわかってはいまい。
彼女がわからないと言ったのは、別の人間のことだった。
そして、同時に私のことだった。
私の部屋には、二本のカッターナイフがある。
一本は文房具として使われ、もう一本は別の使い方がされていた。
まっとうで正直で強靭な彼女は、来年から教壇に立つ。
いかにも相応しい。
彼女を採用しない県があるとすれば、よっぽどの馬鹿
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