降りつのる淫雨のように/hon
 
最初は、ああ、雨が降っているのだと男は思った。密やかな侘しい水の音、便器を打つ排尿のような。しかし、音はすぐ傍の建物の内側から聞こえてくるので、雨ではなくシャワーの音なのだと判断した。床に女の手袋と靴下、そしてベールのついた帽子が散らばって落ちていた。男はやはり女の顔を見たいと考え、頭をぶるっと振って起き上がると、よろよろとシャワーの建物へ歩を進めた。今度こそ、女の顔を覆い隠すものは何も身についていないはずである。バスルームの鮮やかな紫色のカーテンを押し上げて、ついに男が勝利者のように浴槽へ闖入すると、そこに女はいなかった。それは無機質な壁に囲まれた不在の空間だった。糸を引いて排水溝に滴り落ちる淫雨のようなシャワーノズルの水流だけがそこにあった。

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