紫雲/久遠薫子
 

紫にたゆたう雲
その下に降る雨は
永らえた なけなしの冷静に似て
視界の隅に 執拗に馴れ親しみ
見送りつづけてきた時間の発露


とても静かな
とどまる景色のはずれで
濃縮されたしずくが滴り落ちる

草木の、アスファルトの、灯りの、その気配の、



燃え残る夕日に透けた
ちぎれた胸の
今はない輪郭を見ている
流れてしまった半身のわたし
浮かび上がるもう片方の影が
いずれ降りつもる宵闇にとけて
思うだけは自在でいさせて、と
ただそれだけを
口にする間さえもたないとしても





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