紫雲/久遠薫子
 


すこしの未来から
この腕の中へ
孕みきれずに通り抜ける風
逡巡の末に口をついた言葉は
よるべなく
冷えた石畳へ滲み込んでいく
たった十五センチの命


声が 風にのるのは
あとすこし
空気が澄んでからのこと
知らぬ間にしなやかに射抜かれた
僅かな胸の血で木の葉は紅く染まり
一枚ずつ色づいて
それもまた
ひらひら、と風に舞う
そのいさぎよさが欲しい


ふたりになる
ことで
いつしか色彩を帯びはじめた孤独
一秒とて同じ色はない
日暮れの空の低いところに
飲み込んだため息のような
うすい半月が
放たれて


はるか遠く あるいは近く
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