絶筆の冬/
曳舟
からっぽになった私が
書きあらわせられることなど
なにもないのだった
誰もいなくなった私が
これ以上はなすことなど
なにもないのだった
静謐な図書室の
窓辺に寄り添った椅子は
あの時にはもう
私だけのものではなかった
私でないだれかが
手元の活字の上に
日向を躍らせる
小春をもとめて
二の腕をさすった
絶筆の冬
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