絶筆の冬/曳舟
 
からっぽになった私が
書きあらわせられることなど
なにもないのだった

誰もいなくなった私が
これ以上はなすことなど
なにもないのだった

静謐な図書室の
窓辺に寄り添った椅子は
あの時にはもう
私だけのものではなかった

私でないだれかが
手元の活字の上に
日向を躍らせる

小春をもとめて
二の腕をさすった
絶筆の冬


戻る   Point(1)