夜中のヤカン/智哉
夜中にヤカンで湯を沸かそうとした
ただカップラーメンを食べようとしただけだ
ふとヤカンの内側に汚れを見つけた
汚れは小麦粉のようだった
何十回も湯を沸かしても剥がれなかった汚れ
嗚呼そうか、いつかのたこ焼きの生地だ
お前はヤカンを使って器用にたこ焼きを焼いたよな
その生地が何十回もの煮沸に耐え
今こうして夜中の俺の前に姿をさらしている
俺は
先ずはスポンジでこすってみた
びくともしない
こすり続けてみた
矢張りびくともしない
夜中にヤカンを擦り続けることは
なんだか初めてマスターベーションをした夜のように
秘めやかで後ろめたい感じがした
その理由は分かってる
ヤカンの汚れは
お前がこの部屋に住んでいた
最後の残り香だったから
結局頑固な汚れは科学合成スポンジによってあっけなく落ちた
そんなもんなんだ
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