夜中のヤカン/智哉
 
夜中にヤカンで湯を沸かそうとした
ただカップラーメンを食べようとしただけだ
ふとヤカンの内側に汚れを見つけた
汚れは小麦粉のようだった
何十回も湯を沸かしても剥がれなかった汚れ
嗚呼そうか、いつかのたこ焼きの生地だ
お前はヤカンを使って器用にたこ焼きを焼いたよな
その生地が何十回もの煮沸に耐え
今こうして夜中の俺の前に姿をさらしている

俺は

先ずはスポンジでこすってみた
びくともしない

こすり続けてみた 

矢張りびくともしない

夜中にヤカンを擦り続けることは
なんだか初めてマスターベーションをした夜のように
秘めやかで後ろめたい感じがした
その理由は分かってる

ヤカンの汚れは
お前がこの部屋に住んでいた
最後の残り香だったから


結局頑固な汚れは科学合成スポンジによってあっけなく落ちた
そんなもんなんだ
戻る   Point(3)