形/アンテ
おりに角を曲がり
ようやくたどり着いたアパート
は河原に面して
ゆるゆると風を受けている
一階のいちばん隅の部屋
ネームプレートは空白のままだ
チャイムを押しても
なにも聞こえない
知っている風景
対岸には
小さなグラウンドがあって
少年野球のチームが練習している
ジョギングの途中
いつもあの階段でストレッチした
遠くに見える鉄橋の
向こう側には
菜の花の群生があって
「遅かったですね。
このまま逢えないかと思った」
振り返ると
リエちゃんが立っている
涼しげなワンピースの
すそが風に揺れて
いる
ぐらっと視界が回転する
息を吸う
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