森林浴/揚羽 欄符
僕は音のない森の中で
語りかけていた
それはかつての恋人だったり
疎遠になった親にだったり
亡くなった姉にだったり
これまで出会った人達に
とにかく僕は語り続けていた
その間当たり前のように
空は明るくなり
星が増えて減って
太陽は僕を溶かしていった
気付くと目に馴染んだ部屋で
過去に穴をあけて
今に空虚を作って
そこにいた
だけど僕は一滴の涙も流さずに
森に戻った
そこに居てはいけない気がして
僕は居てはいけない気がして
足を引きずって
歩いて
歩いて
語りかけて
森をさ迷って
僕は何をしているんだろう
僕は何処に向かっているんだろう
葉を擦る音だけが
やけに
響いた
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