ロシアパンを売る少女(reprise)/mizu K
 
少女」という絵が
国立美術館にあることも知らず
それが傑作とよばれることも知らず
今日の糧を得るためにまた街頭に立つ

市でにぎわう人びとの喧騒から
ややはずれた位置に立って
野菜売りも花売りも新聞売りも
靴みがきさえも声をはりあげているのに
なにも言わずにただだまってパンを売っている

あの子は生まれつきしゃべれないんだってさあ
耳は聞こえるのかね
そりゃ勘定はしっかりしてるし
あたしはあの子のおつむを心配しているのではないのさ
あれ わたしはありがとうと言うのを聞いたよ
あらそうかいじゃあしゃべれるのかねえ
それでさあ あの子にこっと笑うじゃないか
ほっぺが
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