記憶の旅先/
見崎 光
掌に溢れる
小さな小さな
名前を持たない海は
誰かが忘れた
いつかの涙
そっと還した砂浜に
魅せた幻想は
いつかの真実
風舞い香る
刹那の宴
海をなくした掌は
冷たさと戯れて
指先を転がしている
魚の群れが
いつかを乗せて
遠く遠くの
小波へと消えた
誰かの涙
掬った掌に残る雫
最後の一滴を
空へ放ったなら
そこに笑顔は戻るだろうか
もうすぐ
冬がやってくる
粉雪が静かに街を訪れる頃
掌の忘れ物は
誰かを幸せにしてるだろうか…
戻る
編
削
Point
(9)