ひとつの月/松本 涼
赤い川縁を歩いていた時
僕にとっての君と
君にとっての僕が
同じだなんて信じてた
夕暮れの合図が
街に鳴り響いた時も
どうにもならないことなんて
どこにも無いって信じてた
月がひとつだけ
確かにその時僕らの上には
月はひとつだけだったけれど
きっと明日の空には
いくつもの月の中から
飛び切りの月を選んで
一緒に浮かべられるって
信じてたんだ
けれどもうそこに僕はいない
もちろん君もいない
哀しくはない
僕はここで歌ってる
君もどこかで微笑んでる
僕らはもう何も
信じなくてもいい
僕は僕の
君は君の
飛び切りの月を創ればいい
そうしていつか赤い川縁で
見せ合いっこしよう
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