対岸/こしごえ
鉄(くろがね)の背のように
陽を照り返す
さざなみの群生するこちら側で
砂に潜っている
貝の喘ぎは
打ちよせる海水に
くりかえし濡れる
しろく寡黙な素足にふまれ
飢えた白日夢
青やかな空へ、飛び散っちまった。
ヒグラシが鳴いている
鬱蒼とした静けさで
爪先がじんわりとしびれる
いまは、帰れない
かつての密生した遠い空。
空耳かしら
対岸に立っていた
去ってしまったひとの名を呼びましたか
わたしの知らない
虹の頸筋はほそく傾いて
水晶するあぶくを連れた魚へ
あいさつ
をしている あぁあわあわ
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