深い闇をなぞる秋/九鬼ゑ女
言葉はまるで腹話術師が操る人形みたいだ
玩ばれ、
からかわれ、
疎まれ、
諌められ、
けれど…
時に、“やつ“に
慰められ、
褒められ、
羨ましがられ、
いとおしまれ、
…そうなのだ
人は言葉無しでは生きていけないイキモノなのだ
それでも、
秋の夜長は深い闇
だから闇を覗いちゃいけないよ
ほーほーと、おくんぼうがそう啼いているのがキミにも聞こえるかい?
今はもう松林なんか何処にも見当たらなくなったふるさとの
夏には人で賑わった海水浴場のあったあの海辺の漁村の
そうさ、
「想い出」というじとーっと時化た場所でね
ちっ! しまった
つい闇に深入りしすぎたらしい
言葉がボクを操りに
ずかずかと土足で上がりこんできやがったぞ
さてと、
今夜は…どうしたものか?
※おくんぼう = 木の葉ずく = フクロウ
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