秋の空/小川 葉
 
秋の空は澄んでいる
そう思ったら
澄んでいたのは
わたしの方だった

あのひとは今
春なんだな

そう思っても
わたしの気持ちまで
春になるとは限らない

ふとポケットに手を入れる
あのひとに春の頃
渡すはずだった大きな塊が
今は落ち葉みたいに
小さくしぼんでいて

春はそのように
過去として
たしかにわたしに訪れた

感受性というものはむずかしい
思えば夏もむずかしかった

亡くなったひとみたいに
やすらかな顔をして
鏡にうつして冬を思えば
窓の外
はやすぎる初雪が
音もなく舞っている
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