帰路の雲/蘆琴
て飽きたので、「終はりだ」と言ふに、まづ驚きて、さらに榮譽に満ちた仕事を負ふやうな笑みをし、しばしの沈默のゝち覆ひつゝかの首を絞めて、泉沸く恍惚のときを迎へたるのち、自ら舌を噛み切つた。
「生まれ来てまづ親に従ふ。かしづかれ守られるも、暫しありて、進むべき道を敷かれたると知る。
次に金の合理性に従ふ。親が寄越す好きに浪費するも、暫しありて、得がたくなりぬ。
テレビに従ふ。ただ目に入る情報を穏やかに受け入れ続け、暫しありて、生活水準たる常識に気づいた。
会社に従ふ。与えられた仕事をこなし続け、暫しありて、悩みが生じた。
煙草と酒に従ふ。厭ましいことは忘れえた、暫しありてやめがたくなりぬ。
職場の女に従ふ。女の為にドラッグを断ち恋に生きるも暫しありて、女は西洋の一神教を勧めた。
宗教に従ふ。唯一神との交合に酔いしれるも暫しありて、その脆弱さを知る。
司命に従ふ。命を棄つるこそが絶対的な快楽と遂に気づく」
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