おもいだしたこと/石川和広
 
ひろびろとした
大学の教室の
誰もいない
こと
たしかめて
侵入した

空調は消されていた七月の
ブラインダーの降りた
その場所で
母の作った弁当を

箸の音
なるべく立てず
白く長いのっぺりと
いつまでも 不気味に続くつくえの

下にもぐりこんで
丸い形で
清い躾の、残さず食べた

ひとに
会う
ことの
沈黙に耐え切れずに

もう病に倒れたかったけど

お母さんの弁当は妙にうまく、簡単には倒れなかったカラダ


あれから
かなりたった

けど
まだ倒れてない

不思議に
あたりまえに
まとめずに


あの大学にいくバスは
あのころから
三十分に一本のままだ

苦しいのは
過ぎこした

余念の
ぬけがら


足を引きずって

食卓へ


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