椅子畳職人/木屋 亞万
彼は椅子を畳むのが上手かった
足を器用に動かして
瞬く間に畳んでしまう
八脚のパイプ椅子を分けて
両脇に抱えるようにして
収納スペースへと収めていく
彼は日々を畳むことに長けていた
単調な作業を繰り返す日常を
小さく畳み過去へと収めていく
いつでも引き出せるように
丁寧に整理しながら
彼は自分を畳んでしまう人であった
三つ繋がったパイプ椅子の真ん中のように
周囲の動きに従い畳まれていく
出番の少ない生活の中に
人が隣を空けたがる意味を探しながら
彼は突然店を畳んでしまった
パイプ椅子より安楽椅子の方が
安楽椅子より回転椅子の方が
人に喜ばれるように思ったのだそうだ
畳み椅子はただ持ち運びに適すだけ
奥深く収納された椅子たちは
もう出てくることはないのだろう
彼は傘を折り畳む仕事を始めた
実に折り目正しく仕舞い込み
水滴一つ残さず片付ける
仕事の細やかさは変わらなかった
永遠に眠る畳み椅子たちは
今も彼の胸の中で綺麗に畳まれている
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