無知の世界/シホ
 
暗闇の中でうごめいている
不可識な渇望が
またやってくる

渇望の重さにうちひしがれるとき
僕は
異形の世界へ下りてゆく

眠ってばかりいる僕の
目蓋の裏には
鮮明な画像が灯っている

生ぬるいほとばしりが
僕の脳裡を駆けめぐり
崩壊寸前の自身に呼びかける

生存しているすべてのものが
憎々しげな情感に満ちて
平穏な日常に潜んでいる

失くなるものは見つからず
探しても探しつくしても
無のみ

しかし僕は無への志向に
恐れおののき
一方でその完璧さを信じているのだ

自由のために自身のために
あの鍵の在処を常に
知っておく必要がある

眠ってばかりいる目蓋の裏には
デジャヴのように懐かしい世界が
灯っているのに

僕は僕を
とりまいている世界を
全く知らない

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