儚夢 〜はかなゆめ〜/相良ゆう
どこまでも見渡せる
深緑の大草原に立った僕の
目の前は限られていた
可能性に限られていた
右にも左にも前にも行けた
でも後ろにだけはいけなかったので
遠くに微かに見え隠れする
夢のような蜃気楼に向かって
訳もわからず歩き出した
歩き始めて直ぐ
僕の後ろの草陰から
捨てられない思い出と
消えてくれない後悔が
追いかけるようについて来た
気になって後ろを振り向くと
後悔だけがよく見えた
思い出だけが良く見えた
再び歩き出そうとすると
忘れかけていた思い出が
抱きついてきて僕を引き止めた
「後悔なんか全て忘れて 今は私に浸りなさい」
艶姿で誘う妖精は
耳元で妖しくそう囁くと
媚薬で僕を惑わせた
僕は妖精と円舞を踊った
時間を忘れて現実を捨てて
寄り添って溶け合うように
いつの間にか僕は
薄鈍の大森林に着いていた
夢と思った蜃気楼は
混凝土と冷たい壁の
文化の奴隷を飼う檻だった
途方に暮れて立ち尽くす
僕の目の前は限られていた
可能性を失って
四方を壁に阻まれて
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