読書と恋愛/楢山孝介
 
君は僕の貸した小説
『楢山節考』
『田紳有楽・空気頭』
『北回帰線』を
一ページも読もうとはしなかったね

君は僕の貸した詩集と句集
『山之口貘詩集』
『夜のミッキー・マウス』
『西東三鬼句集』のうち
『夜の〜』だけはちらりと読んで
「どうしてミッキーを暗く書くのかわからない」
そう言ってやっぱり本を閉じたね

君に合うような小説や詩は
僕が書くしかないと思いこんで
サスペンスドラマが好きな君のために
ミステリー小説を徹夜で原稿用紙百枚分書いた
君は一応義理堅く十分の一ほど読み進んでから
「意味がよくわからない」と言って投げ出したね
僕の書き方が悪かったのか
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