創書日和。淡 【てのひら】/佐々宝砂
彼には両脚がないのだけれど
戦場に行ったからではない
戦場に行ったジョニーの内面
彼とは違うジョニーの内面に
わたしとて
全く興味がない
というわけではないが
そういうゲージツ的かつシャカイ的なことは
わりとどうでもよかったりするのだ
わたしの淡い絶望は
わたしの両脚が揃っていること
わたしの淡い悲しみは
わたしの欠損が目に見えないこと
わたしの淡い希望は
わたしのすべてがいずれ喪われるであろうこと
わたしの淡いあこがれは
両のてのひらを地面に下ろして
見せ物小屋のどまんなか
華やかにライトを浴びて
賑やかに喝采を浴びて
一本の脚もないくせに
ひょこひょこと歩いてゆく
歩くための道具であり
描くための道具であり
手品を披露するための道具であり
もちろん握手するための道具である
あのてのひらに頬を寄せたいと思うのは
わたしの
淡い
あくまでも淡い夢想である
(For Johnny Eck)
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