フォルクローレ/佐野権太
夜明け前
神々の気配が
冷えた大地をわたり
静かな洞(うろ)に届けられると
指さした方角から
蒼い鼓動が、はじまる
やがて
優しい鋭さをもって
崇高な感謝があふれだすと
うずくまっていた家畜は
それぞれの肺胞をふるわせ
五本の指で
ばらまかれてゆく旋律に
金色の体毛をうねらせる
葦を紡ぐ女
傍らに包まれた乳飲み子
の澄んだ頬が
猛禽の描く弧を
おとなしく見つめている
木管をすり抜けた
細い呼気が
乾いた空を自在にかすめる
フォルクローレ
どれほど文明が発展しても
心音の速さを越えてゆけば
どこか崩れてしまう
フォルクローレ
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