眠り魚/九鬼ゑ女
 
 
歴史の破片を背びれに纏い
化石のように 魚が眠っている

捏ねまわした岩彩を
私は疑問符と一緒に 魚に重ねていく

   …それはいつから?
   …餌は食べるのですか?

問いが行き交うカンバスの上を
まだらの時間が激しく交差する

水槽の磯巾着が焦れた触手の先で私を擽るので 
干からびた鱗が   一枚
アトリエの床に落ちた
    
剥がれた鱗に
侮蔑のいろを嗅ぎ取った私の筆は
思い出したように 魚を青く塗る
   
けれど忽ち魚は いろを失う
青のかわりに惰性を重石にした魚は
遮られた時の海で ぴくりともせず
いまも深い眠りについている

歴史は混濁したまま 
そして、
・・・・・・私は堕落した指先で 再び腐敗を捏ねまわす

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