月下逍遥/まどろむ海月
 
{引用=




 月の光があたりを
 照らしています



むかし海辺の寒村に
傾いた粗末な小屋があり
結婚間もない若い二人が
寝ていました
あまりに貧しくて
布団の代わりに魚網をかぶって
寄り添っているのでした

破れた板葺きから
漏れる白い光に
網の間の指を
魚のように遊ばせながら
幸せでたまらないといった感じの
夫が妻に それでも少し
声を曇らせて話しかけました
「ねえ、おまえ
 こんなに寒い冬に
 僕たちのような布団さえ持たない人は
 どんなにか辛いだろうねえ」


これ以上の貧しさなど
考えられないのにということで
笑話
[次のページ]
戻る   Point(3)