月下逍遥/まどろむ海月
{引用=
月の光があたりを
照らしています
むかし海辺の寒村に
傾いた粗末な小屋があり
結婚間もない若い二人が
寝ていました
あまりに貧しくて
布団の代わりに魚網をかぶって
寄り添っているのでした
破れた板葺きから
漏れる白い光に
網の間の指を
魚のように遊ばせながら
幸せでたまらないといった感じの
夫が妻に それでも少し
声を曇らせて話しかけました
「ねえ、おまえ
こんなに寒い冬に
僕たちのような布団さえ持たない人は
どんなにか辛いだろうねえ」
これ以上の貧しさなど
考えられないのにということで
笑話
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