硝子の唇/銀猫
 
硝子の風が
きりりと秋の粒子で
二の腕あたりをすり抜け
寂しい、に似た冷たさを残して行く

野原は
囀りをやめて
そうっと十月の衣で包まれている

わたしは
それを秋とは呼べず
かと言って
陽射しはとうに
きんいろを忘れている

萩の赤紫に染まりながら
きみの便りを開くと
望んでいた言葉は
いつしか感傷に姿を変えていて
掌にふるふると振動し
その感触に耐えきれず涙を落とすと
もう、きみの気配は消えて
足元でかさり、と
落ち葉のいちまいになる


思い出未満の恋心が
唇をなぞる日、
ひとり




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