虹と観覧車(短編)/宮市菜央
 
 目覚めるとわたしは知らない部屋に寝ていた。隣には浅黒く日焼けした知らない中年の男がいた。男はまだ眠ったままだ。

 昨夜の記憶は何ひとつない。頭が今にもはじけそうなほど激しく疼いている。
 天井も壁も白で統一されたその部屋は徹底的にシンプルな内装で、広い割には家具が異様に少なく、中央に置かれた円いサイドテーブルが孤島のように浮いていた。ガラス製の天板の上にはグラス二つとアイスペールが残っていて、中の氷を融かしながらまとわりついた水滴を膨らませている。隣り合う水滴が融け合い、膨らみ、融け合い、膨らみ、筋となって天板へと滑り落ちていく。室内のたっぷりと湿気を含んだ暑さで、わたしの胸元にもたっぷ
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