円空/亜樹
せ、大事にしろと思ってもないことを言った。
円空は仏師ではない。ではなぜ木を彫っているのか。それは円空にもわからない。人は円空の彫った木片を見て、慈悲深い顔をしているという。柔らかく笑んでいるという。円空はそうは思わない。図体ばかりでかいでくの坊の自分に石を投げた子どもの表情も、大水に流された母親の最期の表情も、あんなものではなかったかと思う。あれが慈悲だろうか。あれが笑みだろうか。円空はそうは思わない。だから、彼の彫った数多の木片も、やはり笑んではいないのだ。
円空は仏師ではない。けれど、円空は鑿を打つ。大も小もこだわらず、檜の幹のように太い腕を振り上げ、ただ木片を裂く。抉る。
裂けた木肌は、今日も仏の顔を覗かした。円空は仏師ではなかったので、これは木が生まれもった顔だと思った。円空はそれを愛おしいと思う自分に気がついた。そうして、今一度鑿を打った。
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