円空/亜樹
 
 円空は仏師ではない。寺にいた時分はあるが、あれは親のない自分を慮った坊主が、半ば無理矢理押し込んだだけだった。
 円空は仏師ではない。なので、円空が彫るものも仏像ではない。像でもない。ただの木片だ。円空はそう思っている。請われれば、なんの未練もなく人にくれてやっているが、円空にはあんなものを欲しがるものの気が知れない。ただ、無造作に自分が鑿を打ちくけた木片に、いかほどの価値があるというのだろう。いっそ一度くれてやったそれを取り上げて、火にくべてしまおうかと思ったこともある。しかし、円空の彫った木片を抱きしめ、嬉しそうに手を合わせる老婆をみると、それも躊躇われた。うまく言葉を発せない唇の慄かせ、
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