母の上空/佐藤清児
 
帰り道はずっと笑顔で
僕を迎えてくれた母と
これからずっと笑顔で
暮らしていけるのだと
勝手に思い込んでいた
ザアザア降り雨のなか
てるてる坊主は一度も
願いを聞いてくれない





母にはもう一つ
帰るところがあるのだという
夜遅くに、父が教えてくれた
それは何処なのかと聞いても
父は絶対に教えてくれなかった
お酒を飲みながら黙りこくって
窓から見える夜の空を見上げていた
2日だけ泊まって母は帰っていった

帰る日はとても晴れた朝だった
母に、「何処へ帰るの」
とだけ聞くと母は泣いた
大きな声で大きな涙を流した
外はこんなに晴れているのに

僕は泣かなかった
母はやはり、妖怪雨女だったのだ
妖怪雨女の国へと帰っていくのだ

母は何処までも続く田んぼの一本道を
傘を差しながら帰っていった
母の上空にはいつも傘がある
外はこんなに晴れているのに


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