私には私の/こうや
 
夕方5時、泣いている子供に出くわす

私は
甘い声を出してあやすほど
手馴れた大人ではない

でも私は
大音量で泣く音源を
置き去りにするほど
子供でもない

うろうろと周囲を見回したあと
気恥ずかしい思いで
額をそっと撫でてやる

湿り気と熱気を帯びた皮膚が
同じ血をもつ母性を求めている

半端な気持ちで手を伸ばした私の心根を
拒絶しているのか推し量っているのか

ただ一点だけ明瞭に
私の子供ではないということが
指先から伝わってくる

目には見えない血縁が
偽りの母性をちくちくと責める

一つの子に一つの親

子を呼ぶ母の声が聞こえ
張り詰めた息をそっと吐き出し
人知れずその場を後にした


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